「あなたの心に…」
Act.13 12月4日、雨
雨。雨。雨。
も〜ぉ、ど〜して、今日降るかなぁ。
そりゃあ、別に屋外で行事をするわけでもないし、
どこかへお出かけするわけでもないの。
でも、やっぱりシトシト雨が降ってる、陰鬱な日よりも、
スカッと晴れた日に誕生日を迎える方がいいじゃない。
「ね、そう思わない。マナ?」
「わからない。私、もう年取らないから」
「あ〜!それって、私がオバンになったって匂わしてない?」
「へ?アスカって匂うの?幽霊って嗅覚もないのよね」
「誰が匂うって?アンタわかってて、とぼけてるでしょ」
「へへ、アスカと知り合って1ヶ月以上だからね、私の口も達者になったでしょ」
「達者って、アンタ古臭い言葉使って…」
「うん、最近ママさん、時代劇に凝ってて、よく見てるの。
私も暇だから横で見てるんだけど」
「見えてないよね、ママ」
「たぶんね。聞いてみたことないけど。隣で見てても、何の反応もしないから」
う〜ん。断定はできないわね。あの我が家のラスボスは、常人とは異なるから。
「お〜い、アスカ。急がないと遅れちゃうよ」
「そうね、じゃ行って来るね」
マナは手を振って見送ってくれたわ。
そういや、マナの誕生日って聞いてなかったな。
うん、今度聞いてお祝いしよっと。
別に何才になったっていう、祝いじゃないもん。
この世に生を受けたことの記念なんだから!
12月4日、雨。
惣流・アスカ・ラングレー、本日から14才。
う〜ん、私が誕生日だって、別に学校は変わりないわね。
当り前か。
隣のマナの想い人は、いつものように真剣に授業を受けてるわ。
昨日も一昨日も、
家で私の料理を(私のはメインディッシュだけ、あとはママの料理)食べてったんだけど、
『美味しかった』としか言わない。
別に誉めて欲しくはないのよね。私、お世辞は嫌い。
それよりも、もっと能力が上がるように建設的なコメントが欲しいのよ。
う〜ん、料理が得意って聞いてたから、もっと期待してたのに。ちょっと、残念。
今日は何作ろうかな…。
アンタは何食べたい?
へ?今の何?
ああ、博愛精神の高い私の心の表れね。
アイツのリクエストを聞こうとするなんて、本当に私は人間ができてるわ。
お昼休み。
アイツはあれからお弁当を作ってくるようになった。
でも今日は約束どおり、私が作ったサンドイッチ。
この前あんなに言われたから、もう一度ドリアンでいこうかとも思ったわ。
はは、そんなの大人気ないから止めた。
きちんと美味しく作ったわ。味は大丈夫。
同じモノをヒカリが美味しい、って食べてるもん。
アイツは食べるのはいつも外。教室では食べない。
あ、今日は雨だから、どこかな?
どこかそういうポイントがあるんでしょ、きっと。
だけどアイツは一人じゃない。
私?ははは、滅相もない。
私はヒカリと食べてるわ。
アイツは鈴原とメガネと一緒。
ま、メガネは鈴原にくっついてるから、
鈴原がアイツと一緒に食べてくれるようになったって事。
これは私がヒカリに頼んだのよね。
主目的は、もちろんアイツのサルベージ。
一人で食べるよりも、みんなで食べる方が気持ちが明るくなるもの。
もうひとつは、ヒカリと鈴原を接近させるため。
ヒカリったら、(どこがいいのか全然わかんないけど)鈴原が好きなのよね。
なのに、全然アプローチできないのよ。歯がゆいったら、ありゃしない。
私だったら、好きな人ができたら、即告白するのにな…。
ま、ヒカリがそんなだから、ちょっとでも接点を増やしてあげようというワケ。
鈴原にアイツのことをお願いする、
ただそれだけを伝えるのにどんなに時間がかかったか。
恋する乙女ってのは、どうしてあんなにうじうじするんだろ。
根はいいヤツだから(私はあのキャラは駄目。ヒカリはどこがいいのだろ?)、
鈴原は簡単にOKしてくれたわ。
ヒカリにラブラブ弁当を作らせて、鈴原に食べさせるってのが次のステップね。
それはタイミングを見計らって、私が後押ししてあげるわね。
ホント、みんなどうしてパッパとできないんでしょうね?不思議だわ。
好きなら好きで、さっさと告白でもなんでもすりゃいいのに。
「ね、アスカ?」
「なに?」
考え事しながらでも会話は大丈夫よ。
ちゃんとヒカリの言うことも聞いてるわ。
「今日、さ、アスカの誕生日でしょ。プレゼントあるから、家におじゃましていい?」
「ホント!もちろんOKよ。嬉しい!」
「じゃ、放課後に」
「それじゃ、晩御飯食べていってよ。一応、それっぽくする予定なの」
「あ、ごめんなさい。今日はお父さん夜勤で、お姉ちゃんも遅いの。
だから妹の面倒みないといけないから…残念だけど」
「じゃ、妹さんも連れておいでよ、ね!」
「そ、そんなの悪いよ。せっかくの誕生日なのに」
「ううん、どうせママと二人なんだから、ヒカリたちが来てくれた方が私嬉しいよ」
「そうなの?だったら…おじゃましようかな?本当にいいの?」
「当り前じゃない。ママに腕によりをかけてもらおっと」
「あ、じゃ私はアスカのお母さんのレシピ盗んじゃお」
う〜ん、さすがは家事のエキスパートね、油断できないわ。
あ、アイツにも言っておかないと。
今日は来ないでいいって。
うん、私が作るんじゃないし、ヒカリたちに変に思われちゃうから。
6時間目が終わって、ホームルーム。
期末試験の日程が発表されたわ。
12月9日から3日間。
ただいい点をとるだけなら楽勝だけど、アイツに勝たなきゃいけないから。
だって負けるのイヤだもん。
アイツから学年TOPの座を奪い取るのよ!
ふふん、アイツの泣き顔を見たいわ…。
ちょっと待って。それってサルベージ計画に問題ない?
アイツ落ち込んじゃって、さらに深みへ嵌っていくとか。
う〜ん、マナに聞いてみるしかないわね。
でも、一番になりたいし、これは困りものね。
そうそう、今日の夕食の件はメモでアイツに渡しておいたわ。
アイツは軽く頷いてた。
うっ…。そんなに軽く反応されるのも癪に障るわね。
『君の料理を食べられないくらいなら!』なんて反応して欲しいものよ。
この私が作ってあげてるんだからさ。
そりゃ、自分の方が巧いんだから、今日は自分で作んなさい。
校門へ続く道は、傘の花が咲いている。
私は教室の窓からそれを眺めていたの。
あ、校門の前に黒い外車が止まってるわ。
誰よ、お迎えなんかさせてるお金持ちは!嫌味ね。
あそこ…あの黒い傘は、アイツね。
何急いでるだろ。いつもゆっくり歩いてんのに、今日は早足だ。
その後ろ…。ちょっと、離れたところをベージュの傘が動いている。
あれは高い傘よ。間違いない。ブランド物ね。学校にあんな傘使うなんて。
あら?あれって、綾波レイじゃない。うん、間違いないわ。
へぇ…、あの娘ってお嬢様な…えぇっ!あの外車に乗っちゃったよ、綾波レイが。
うわ!本当にお嬢様だったんだ。
「ごめ〜ん!アスカ、待った?」
ヒカリが職員室から帰ってきたわ。
私は振り返って首を振った。
「ううん、外見てるのって、結構飽きないから」
「面白いものでも見えた?」
「あ、ほら1組の綾波さん。凄い外車でお迎えされてた」
「へえ、そうなの。お嬢様って聞いてたけど。凄いわね」
「日本の学校であれは初めて見たわ。あっちではそこそこあったけど」
「う〜ん、今日雨だからじゃない?どうも病弱みたいだから、綾波さん」
「そうか…。そんな感じね。いかにも深窓の佳人って風に見えるもんね」
「そうね。あまりに高嶺の花っぽいから、
人気は高いのに告白はほとんどされてないって、相田が言ってたわ」
「ふ〜ん」
相変わらずあのメガネは情報通ね。そうだ。ヒカリの意見も聞いてみよっと。
「あのさ、アイツとあの綾波レイって、お似合いだと思わない?」
「え!アイツって碇君?」
「そうよ、アイツ」
私がアイツと呼ぶのはアイツだけ。
他は苗字(例:鈴原)か略称(例:メガネ)ね。
「碇君と綾波さん…う〜ん」
あれ?ヒカリったら、考え込んでるよ。そんなに難問なの?
「そりゃあ…、雰囲気は似てるわよね…でも…」
「駄目かな…?私、あの二人をくっつけちゃおって思って」
「ええっ!」
ヒカリが大声で叫んで、私を見つめたわ。
「いいの?本当にそれでいいの?」
「はい?」
この娘ったら、何エキサイトしてんのかしら?
「それって碇君と綾波さんを交際させるって意味なのよ。
アスカ、わかってる?わかって言ってるの?」
「うん。よくわかってるけど」
私は平然として答えたわ。
ヒカリはきっと何か勘違いしてるのね。
「アスカって変よ。絶対におかしいわ。そんなことしたら一生後悔するわよ」
え?この毎日よく聞くフレーズは…、マナ?
ということは…。
「え!ち、ちょっと待って!ヒカリ、アンタ誤解してない?」
「してないつもりだけど」
「私はアイツのこと、何とも思ってないのよ。ホント」
ヒカリは私の言葉を信じてない様子だった。
私が何度も否定するから、仕方なく言うことを聞いたって感じ。
どうして、マナといい、ヒカリといい、
私とアイツを結び付けようとするんだろ?
これは急がないといけないわね。
早くアイツとあの綾波レイをくっつけないと、
私に変な噂が立っちゃうじゃない!
Act.13 12月4日、雨 ―終―
<あとがき>
こんにちは、ジュンです。
第13話です。『アスカ、14才のバースデイ』編の前編になります。
いよいよ、アスカが自分の気持をわからないままに、
シンジとレイをくっつけようと真剣に考え始めます。
でも、まだだ!本格的に始動する(してしまう)のは、3学期が始まってからでしょう。
まず、レイと親しくならないといけませんから。